■脱タイトシルエットは到来するのか、モードは若者から大人に?
雑誌「pen」No.240は、21世紀ドレスコードという途方もなくでかい
特集を掲げていますが、これが簡潔に書かれていて結構読みやすい。
僕の考えも入れつつ、ちょっと紹介してみようかと思います。
●2000年前後(ここ10年間)は「タイトシルエット」と「ストリート」
70年代、80年代という10年でひとくくりされるファッションスタイル
が一般的だとしたら、ここ10年は「タイトシルエット」が特徴。ジャケット、
シャツの身幅、アーム幅、着丈がとても短くなった。パンツも股上が浅い
スキニーが一気に台頭、定番となりました。実際のサイズより1サイズ下
を着ることがお洒落という見方をされている。これは一般のビジネスマンの
スーツまでにも拡がり、「モテスリム」といった細見を多く目にする。そして、
マッキントッシュやブルックスブラザーズといったクラシックブランドまでもが、
細見に改良された。
このタイトシルエットの流れを牽引してきたブランドとして大きな存在が
ディオールオムです。当時のデザイナーは、皆さんもご存じのエディスリマン。
いまだにファンは多いと思います。白いドレスシャツ、極細の黒ネクタイ、
ヒップが覗くほど短い着丈で女性でも着られるくらい細いテーラードにロー
ライズパンツ、このスタイルが21世紀に入り大流行。イギリスのロックバンドの
衣装、細長い少年達が常にイメージとしてエディスリマンの中にありました。
ディオールオム・バイ・エディスリマン 2006A/W
●モードが若者のものになった21世紀の始め
ディオールオムを中心に、モードがストリートに流れてきたのも特徴的でした。
上記のようなスタイルがストリートで見られるようになる。同じく、2000年の
始めはドルチェ&ガッバーナが若者の間で人気になる。ドレスダウンとして黒
のタキシードジャケットにクラッシュ加工のジーンズ、スニーカーあるいは尖った
ドレスシューズを履く。といったカジュアルとドレスのミックスされたスタイルが
よく見られるようになった。これは、80年代のアメカジスタイルではなかった
流れで斬新だったと思います。ちなみに、それがさらにエスカレートした形で、
今のお兄系のファッションがあります。
●音楽と服の関係
エディスリマンが、「ロックエレメント」をテーマとしてイギリスの音楽シーンを
常に意識したように、音楽と服の関係は深いつながりがあります。前述の
ミックススタイルは90年代から流行ったグランジ、ミクスチャーと呼ばれる音楽
ジャンルが日本の若者の間で台頭してきたことが関係している、とされてい
ます。ロック、ジャズ、ヒップホップ、テクノも入り交わることで、若者の間で盛り上
がりました。
ヨーロッパのように、しっかりと正装、カジュアルとTPOで着こなす
わけではなく、「着崩す」というごく自然なミックス・コーディネートが光った。
レイヤード(重ね着)、ヴィンテージ加工という若者たちのスタイルが、本来格調
高き大人のモードコレクションで逆に採用された。まさに若者中心にドレスコード
が決まっていく、そんな10年間だったようです。
●ポストエディスリマン、モードは脱若者の動きで上品、知的に
2007A/W、80年代の「ニューウェーブ」をタイトに表現したのを最後に、エディスリ
マンはディオールオムを去りました。
その後、トムブラウンを中心としたネオアメトラが登場。タイトだけ踏襲しつつも
80年代からのアイビー、プレッピーを再度提案しました。また、ヨーロッパでは
破綻しかかっていたランバンが復活。ルカオッセンドライバーがポストエディスリマン
として、サラリと羽織れるリラックスドエレガンスを提案。タイトなんだけど、フランス
のエスプリ、最高の着心地、21世紀の新素材の実験を展開し注目を浴びています。
これらは、上品で知的なテイストであると同時に、大人向けのワードローブである
ことが考えられる(トムブラウンはどうかと思うけど 苦笑)。老舗のブランド、アメトラ、
そしてブリトラ・・・トラッドというものをベースにモードが展開されていくようになること
によって、自然とデザイナー達の目線は若者から大人へとシフトしていく。
penでは書かれていませんが、この一方でスカートやレースといったジェンダーレス
の流れもトレンドとしてあることをここに書いておきます。でも、ファッションスタイル
の中心にはなりませんね。
●2010年以降、ドレスコードは大人のもの(原点回帰)になるか
今回の2009-2010A/Wでは、ロックや若者の不良っぽさはなく、シック、
正統派、ダンディ、といった「男の装い」という感じが目立った。
ラフシモンズ アレキサンダーマックイーン
この流れで、2010年代に入り再びドレスコードが社会生活に順応した大人の
ドレスコードに回帰していくのかが注目される。 僕個人としては、脱タイトシルエット
の波が来るかどうか。現在はスリムフィットといくらか楽な装いになりましたが、
東京ではまだまだはピチピチスタイルの人が多い。これが2010年で変わるのか
否か。
ちなみに、ディオールオムのデザイナー就任の噂が出ているガレスピューの
シルエットは、エディスリマンを彷彿とさせるタイトさです。
こんな感じで、2000年に入ってからのドレスコードの流れをざっと書きましたが、
ファストファッションの台頭、世界経済の衰退により、そもそもモードブランド自体
が安定していなく、保守的になる傾向が著しい。ドレスコードが大人のものに
なるというよりかは、リスクマネジメント先行型のリアルクローズに近い方向に、
ファッションが委縮していってしまうような感じがしています。それはそれで
ちょっと残念だったりするのが正直なところです。雑誌「pen」No.240」は、
とてもよくまとめられているので、ぜひ読んでみてください。
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