■上層と下層、格差で分かれていた市場が、全部下層に流れゆくまでの過程を考察
本記事では、簡単にここ数年の日本ファッション市場の変化を書きます。先に結論を書くと、近年の消費者のファッションの脱従属意識、脱記号消費を前提にして、消費者の「個性」に焦点をおき、「個」を創り上げる手助けをするコンシェルジュ的存在(スタッフがその役目)の必要性を書きます。このコンシェルジュが、「所有」を促すのではなく、「消費者がどうなりたいか」(havingからbeingへの転換)、ということを提案することが重要ではないかと思っています。これが日本のファッション市場全体を活性化する1つの道だと思っています。もう1つ、リーマンショックの影響も受け不況が深刻化する現在でも、お金を持っている超富裕層はいます。その人達にどれだけ訴求していけるかが大切。一時起こったメゾンの値下げ連鎖反応は彼らを置き去りにしてしまったと思いました。オートクチュールとまでは言いませんが、どう彼らを喜ばすことができるかで、最終的にお金が回り少しでも経済は活性化されるんじゃないかと。
もうルイヴィトンだけ売っていればなんとかなる時代ではありません。て、前からそうですが(汗)。服好きに従属意識を求めても少々難しいです。だからといって、ユニクロ、H&M、GAPがあればそれでいい。そう思っている人もいません。アルマーニタワーのスパ、そんなものもありましたっけ?衣食住をブランドの世界観で全て覆う「格差社会」の時とは現在は違います。
先月、企業の存続をかけた新銀座三越がオープンしました。WWDの中で、新三越銀座のコンセプトとして書かれていた一人十色。個性の尊重と「銀座スタイル」というアイデンティティの差別化、幅広いラインナップ、食と服の空間の融合。全ては、三越という「のれん」の上であぐらをかいていた三越が悪かったわけですが、伊勢丹と経営統合をして、独自性と戦略的コンセプトを設けるノウハウを学び、銀座で1位の百貨店に返り咲こうとしています。一方、ファストファッション最盛期ともいえる昨今、ファッション市場は縮小の一途を辿っているとも言われています。H&Mはメゾンであるランバンとのコラボを決め、今月に販売を行ないます。消費者の心理の中にモードブランド、ファストファッションも垣根はありません。欲しいものを欲しいときに、自分に合うようにカスタマイズしていく「個」を大切にします。それは、お客の懐具合に左右されません。着こなしを消費者の問題解決として捉え親身になれるコンシェルジュ。これこそが本来百貨店のスタッフ、バイヤーの力なのではないでしょうか。 これは百貨店だけでなく、小さなセレクトショップも同じことが言えると思います。
1】「格差社会」が社会の構図と言われた2007年は、上の層をニューリッチ層として市場を開拓した
ファッションの2極化と題して過去に記事を書きました。比較的モードブランドは売れていましたが、ファストファッションが元気になってきたため、庶民も最新のファッションにより深く関わるようになった。さらに進むファッションの大衆化です。これは、書籍「堕落する高級ブランド」でも書かれています。そこで、高級ブランドはさらに差別化する戦略を考えます。この時、山城一幸氏はファッションブランドも「格差」がキーワードで、衣食住を加えたラグジュアリーブランドの更なる高級路線とファストファッションの台頭の2極化がそれを表している、と、簡単に言えば述べています。
アルマーニ銀座タワー、ブルガリ銀座タワーなど、ブランドの価値をタワーを通して外観で表すとともに、衣食住などの新たなサービスでそのブランドに付加価値をつけるという、消費者にとってはよりお金のかかる提案を行うブランドが増えてきました。これによって生まれたのがニューリッチ層なわけです。超高級市場の開拓でもあり、生涯にわたりブランドと関わっていくということです。山城一幸氏の話の中にある、「大衆への市場のを広げてきたブランドの路線変更」という言葉がありました。
一方で、前から行われてきた佐藤可士和氏がディレクションを務めたユニクロ刷新のプロジェクトも成功。内装も変わり、新鋭ブランドとコラボを行うD.I.Pなども盛り上がる。おしゃれさんがかなりユニクロをコーディネートに入れたりして、ユニクロがお洒落としての市民権が完全に与えられた瞬間かも?なんて思ったものです。ちょうど、エディ・スリマンがディオールオムを降りたのも2007A/Wでしたね。ここからモードはカオスになるわけですが、図表だと以下のような感じ。ここまでが格差社会を取り巻く日本ファッション市場の様子。これが一点。【図はポップアップで拡大可能】
2】リーマンショック、アウトレットモールの乱立、ファストファッションによるファッション市場全体の縮小、メゾンの値下げ、ECサイト市場拡大、百貨店の超スランプ
さて時は2008年。日本ファッション市場が大きく動いたのは11月。2つの大きな出来事が起こります。1つはリーマンショックによる金融危機とH&M銀座、原宿の上陸です。これで流れは変わっていきます。
まずは、ニューリッチ層としてメゾンの売上に貢献していた顧客、例えば実業家などの中でも不況によってダメージがをうけるものもでてきた。もちろん高級ブランドにジャブジャブお金は使えない。年収1000万円の以上の男性が、全労働者4.9%だった2008年も、今年はさらに減っていることでしょう。ブランドなどで生活全てを固める生涯ライフ設計終了のお知らせを聞くことになります。そして、H&Mが日本に上陸したときに行ったのがコム・デ・ギャルソンとのコラボ。もともと熱しやすく冷めやすい日本人達は、ここからファストファッションという「安い快楽」に身を投じていきます。ドーパミンでまくり状態。そこそこの品質で、激安であの有名デザイナー、メゾンのアイテムが買える。これは富裕層の心も捉え、ラグジュアリーブランドとの行き来が目立つようになります。この延長線上で垣根が壊れたことを意味すると思います。H&Mと同じくらい目立っていたユニクロは、斬新なweb広告戦略で、カンヌ国際広告祭サイバー部門でグランプリを獲得。ユニクロが日本のファッションの顔となったのが2008年でした。
一方、リーマンショックによる不況と円高の影響を受けて、ラグジュアリーブランドは禁断の手とも言える値下げを行います。ルイヴィトン、フェラガモ、ランバン、カルティエ、ティファニーなどの有名ブランドが値下げを行ったことは、皆に衝撃を与えました。シャネルなどはリストラを断行。ここまでが、これがもう1つの点。ここからは、一連の流れをさらに細かく簡単に箇条書きで行きましょう。
・時代は百貨店から安さのアウトレット、専門の直営店の流れへ。三井アウトレットパーク入間のオープンで関東のお客の流れがアウトレットにますますシフト。百貨店のお客の数が減る。その後もお台場をはじめアウトレットの乱立が起こります。直営店である旗艦店がどんどん建設され、特定のアイテムを買いたい消費者にとって百貨店の存在が中途半端になっていきます。
・正規価格で売るのが常識の百貨店が焦る。2008年から前倒しでセール連発をはじめます。この流れは2009年にはいってもずっと続きます。毎月前年比、売上高二桁のマイナス。三越と伊勢丹、大丸と松屋が経営統合するなど、銀行のような大型統合劇も起こります。 同時にリストラ策では、早期退職希望者も数千人規模に達する。さらに、中間価格帯でつくるプライベートブランドに各百貨店は力を入れる。コストパフォーマンスで攻める。
・2009年では、ファストファッションアイテムがたくさん売れ単価が低いため、販売量が売れても国内のファッション市場が縮小されていることが見えてきます。その中で、ラグジュアリーブランドの破綻が起きます。一番ショックだったのはヨウジヤマモトでしょう。クリスチャンラクロアも破綻。破綻寸前だったトムブラウンはクロスカンパニーの出資によって復活しました。ヴェルサーチは撤退。今年はD&Gも撤退が決まっていますね。ファッション誌の休刊も止まりません。
・ファストファッションでもさらなる廉価版が登場。「格安◯◯」の流れが加速。g.u.の990円ジーンズが大きな影響を与える。アパレル産業がますます価格競争激化。
・逆に、ファストファッションで所謂「ちょい高」がブーム。ユニクロはUJを立ち上げ、カイハラ社製の9,990円のジーンズを販売。ちょい高ファストファッションブランド市場とさらにニッチををねらう。
・高級ブランドではセカンドラインをを出してせまい価格帯の中で差別化を図るものもある。
・ZOZOやYOOX、ディスカウント系ECサイトが大きく前進。常に70%OFFセールを時間制限で行うフラッシュマーケティングの雄、会員制オンラインファミリーセールのギルトが上陸。
・若者は、ピチピチのテーラードでVネックニットをインナーにして、スキニーを履くというどこでもあるようなスタイルを辞め、準拠集団に依存しない「個」を持つ傾向が強くなる。
「ハイ&ロー」の着こなしで倹約する若者も現れる・・・この辺までは不況は関係していると思います。
以上の流れから、従属主義から個の時代へとか、世界から日本人は倹約家とのレッテルを貼られるといった考え方も観察されるようになりました。リッチ層への訴求も変わっていきました。しかし、超富裕層の中には値下げよりも品質を高める、最上級のものを欲する人達はいないことはない。 ここに目を向けないと日本のアパレル産業は、数は売れても単価が低いため、確実に縮小されていきます。
これとは逆に、以上のような廉価の流れから超高級ブランドもハイストリートブランドくらいまでの品質と価格で売る。それでも売れなければアウトレット行き。高級ブランドは、有名百貨店に出しても売れない。結果、半額当然で売り捌かれブランドイメージに傷がつく。中間価格帯並みになったものもある。故に、直営店のほうがよいだろうとラグジュアリーブランドの百貨店離れも起きる。
このように、ハイブランドがズルズルと価格帯が下がっていく中で、ファストファッションは容赦なくかぶり付きます。今回のH&M×ランバン。ファストファッションは、高級ブランドの冠をもらって高級イメージを植えつけようとしています。このハイからローに、ローがハイに登ろうとするところで、仁義なき戦いが起こってしまっています。この市場は、ブルーオーシャンの理論でいう「血みどろの海」。これまでの流れが以下の図にまとめたもの。【図はポップアップで拡大可能】
3】問われるスタッフの提案力
あらましまでなので、解決は関係者の方に頑張ってもらいたいのですが、新銀座三越もオープンしたといことで、スタッフにスポットをあてて簡単にあげてみました。
◎スタッフは、全員がバイヤー
◎スタッフは、全員がコンシェルジュ
◎スタッフは、全員スタイリスト
◎スタッフは、売り場の自主編集のスペシャリスト
◎スタッフは稀少性、地域性をフルに使う
◎スタッフはhaving からbeingを提供する感性伝達者
・・・に、なるつもりでがんばってみてはいかがでしょう?ということです、あくまで提案(笑)。
予算に応じて、お客に提案していける「人間力」こそが必要なときが今だと思います。それを新銀座三越、あるいは各セレクトショップに頑張って頂きたいなぁと。 有名ブランドだけなら、上の図表の「知名度」のほうには溢れんばかりのブランドがひしめき合っています。よって血みどろの海になるわけです。ファッション誌に掲載されるブランドは大体この辺に今あります。
このことを実現することで、ライバルのいなくて価格帯に縛られない新市場の創出、「バリューイノベーション」とまでは行くかどうかは分かりませんが、ブルーオーシャンらしき場所に到達できるということです。特に、図表の右のブルーゾーン(さらにさらに- - - - -)の三角形エリアは認知度が低いところですが、スタッフの提案の仕方によって独自性が出せるんじゃないかと思います。まさにhavingからbeingです。置き去りになっているトップの超富裕層をターゲットにする市場に、ライバルはかつてほど、いないと考えています。ここは、単価が高くても関係性を維持する可能性はなきにしもあらず。ファストファッションがダメなんじゃあない、トップメゾン、クラシックブランドが高くても買いたい人もいる。だから、客自身の「感性」に響く提案をしていくことが大切。特に、価格帯が高いものほど他者と差別化ができ、自由度があり末永く使えます。顧客カードのデータベースがあれば、その顧客の要望にあったものを提案していくことができる。それで売上は上がっていくと思います。ちょうど、追い風はユニクロから百貨店のほうに再びなびきそうな感じもあります。今がチャンスかもしれない。 そして、忘れてならないのが海外からの観光客。時代はネットは世界をつなぎます。「あのショップに行けば!」という訴求は、何も日本人だけじゃなくてもよいでしょう。あくまでGDPを上げることが重要だったり。
というわけで、オチとしたは、本ブログ自体がどんな時代、状況でも安くブランド品を手に入れる方法を模索していくという矛盾があることを宣言しておくわけですが(笑)。ファッションを取り巻く日本市場の動きを書いてみました。探せば、地域性の希少なプロダクトは世界中にありますし、個のライフスタイルになった着こなしを提案することは、成熟している日本のファッションの中ではとても重要になってくるのではないかと思います。 ちょっと種類が違うかもしれませんが、道の駅とか、地場産が高めでも売れるじゃないですか?「そうそう、こういうのが欲しかった。あるいは、こういうふうになりたかった」という、感性情報を与える(フルフィルメント)ところ見つけるのがスタッフにかかってくると思います。 物欲から自分が何になるかという自己実現欲の手助けをすることが、これから大切だと考えています。詳細は、「買いたい!」のスイッチを押す方法 を読んでみてください。
最後の最後に。本記事を書いたきっかけは、あるアパレルスタッフの人と話したときのこと。「皆値下げとかセールとかセカンドラインといった廉価版を出して、内容価格ともにワンランク下げるけど、すごく高くて稀少性のあるものを定価で買う超富裕層がまだいるのに勿体無いなぁ」と言っていたことです。もちろん、10年以上前の百貨店のような高慢な販売方法は通用しませんが、高価でよいものを欲する人は今現在でもいる、ということを思い起こさせてくれました。
参考:銀座百貨店戦争−三越は銀座を制するのか、銀座で散るのか
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