■1980年代からのアパレル消費の傾向性の変化と今後について
Why fast fashion is slow death for the planetという記事がguardian.co.ukに掲載されています。ものすごく長い考察なので、ごく簡単に短く紹介してみようと思いました。結論から言うと、題名のごとくファストファッション産業の今後は暗いということです。その理由と、これまでの消費心理の変化が書かれています。
▲時代とともに変わる英国の消費者の洋服に対する購買行動の変化
【1年間のアパレル消費量は1980年代に比べ4倍、625ポンド】
あくまで平均ですが、これが1年間の英国の平均アパレル消費量です。重量計1.72メガトンの洋服が販売され、1人28kgになるそうです。しかし、人目に付くトレンド性の高いアイテムはファストファッションの速さに付いてこれず、古くなればゴミ箱行きになっていると。
【早過ぎるトレンドと価格】
Louise R Morgan と Grete Birtwistleがアパレル消費に関する調査を行いました。すると1980年代半ばと2005年からの英国の消費者の衣類の消費を比較して、変化が見られることがわかりました。
それは、消費者個人の「収入」と「季節感」で買い足し、慎重に選ぶ1980年代の購買感覚ではなく、 「安い」ということで商品に対して軽い気持ちにあるということです。それは、何か問題があった場合でもゴミ箱行きになることにためらいを比較的感じ無いことだそうです。
【満足の変化】
オックスフォードストリートを、衣類でパンパンの紙袋を持って歩く女性を見かけるようになった。雨が振っても衣服を降り下げて1つに集めて雨に濡れないようにするかと思ったが、女性はそのまま歩いて行った。このように、以前よりも服を軽く見ていることにゾッとする思いがする、とファッション産業の評論家は語っています。「質よりも量」で消費者は満足していることが読み取れるかもしれません。
▲トレンドの最先端を味わうために繰り返される購買
【ランウェイにある服がすぐ手に入る甘い罠】
英国では、トップショップの存在がファストファッションの拡大の大きな要因なのは、言うまでもありません。国際的なトレンドから、どう「流行の服を手に入れるか」、ということを紹介するのはファッション誌だけでしたが、トップショップがその存在になったわけです。そして、トップショップの成功は、追随者を増やしファストファッションを拡大することになるわけです。低いコストと素早い反応、SPA、市場調査、生産サイクルの超短縮化(開発途上地域の供給者にファックスを送って多くのデザインを大量生産)が業界基準になってきた。 トップショップ、H&M、ZARAは、それぞれ今までにない生産体制をつくりあげました。その時のトレンドをすぐに商品化できるものです。
【その場で買わないと、次の週にはそのデザインがない仕組みは恐怖心を与える】
ZARAではその場で買わないと、次の週には前の商品がない・・・。そんな都市伝説のようなことがファストファッションにあります。数百のデザイナーが数万のデザインを考えて、どんどん生産してはお店で回していきます。
パリ・ミラノコレクションのキャットウォークで見たアイテムが手頃なバージョンで買える。でも、その機会は今しかない。ならば買わなければ、というひどい飢餓をおこします。ハーバード大学の調査機関は、「a sense of tantalising exclusivity(排他的なもどかしさを換気する感覚)」と言っています。
【ファストファッションが品質で選ぶ思考を停止させた】
消費者は、衣服を購入する点でプライオリティが変化しました。1年に2回シーズンに分けて販売されていたファッション業界も、20回になった。最先端のファッションと低価格は、消費者の衣服購入は新しさを追い求め品質や、長い伝統で作られたものを破棄させました。
結果的に2003年から2007年までに、英国のファッション産業に衣服の平均価格は10%ダウンしました。これはファストファッションの価格が低いからです。もちろん市場も縮小してしまいます。
▲ファストファッションは適正価格なのか
【ファストファッションの低価格の裏で泣く低賃金労働者】
海外の被服縫製工場では、バングラディッシュのように低い賃金で働いています。これは、フェアトレードとは違います。スピードが命の企業からは縫製労働者は期限内に命令を終了するように圧力をかけられています。1日10時間から15時間労働でサービス残業もあります。 真偽は分かりかねますが、場所によっては工程が終わるまで帰れない工場もあるということが書かれています。
【ファストファッションはリーズナブルではない】
英国の平均年収の人たちに、ファストファッションの価格はリーズナブルかと言われれば、「NO」と答えるでしょう。むしろもっと買う予算額をあげなさい、と考察記事には書かれています。それによって、品質がよくてスタミナの優れたワードローブが手に入る。消費の中毒によって数ばかりが増えないようにすること。毎週20ポンドのファストファッションアイテムを買うようりも、月に100ポンドの買い物をしたほうがよい。 結局ゴミ箱行きの商品が部屋に溢れてしまったら、それは損をしているということだと思います。
▲日本の状況
ここからは私の意見でございますが、ファストファッションブランドが消えることはないでしょう。英国で生まれたトップショップが消えるというのは日本で言えばユニクロが消えるような感じ(両社、規模もデザイン性も全然違いますが)。どちらも、ファストファッションブランドの中でも高品質のほうです。今後、定番となり淘汰されていくと思います。
一度ラグジュアリーブランドから離れた日本の消費者達が、ファストファッションの熱狂から覚め、もう1度商品の背景を探り「量より質」「ブームより個の選択」の方向性が強くなるのではないか・・・。「価格」「トレンド」という、強い吸引力だけでどうにかできる時代でもなくなるということです。だから、上陸したファストファッションブランドで5年後に撤退しているブランドはあるかもしれません。これが私の考え。
このあたりに到るまでの過去記事は、お時間があれば読んで頂ければ幸いです。
今、ファストファッション戦争を読み直しながら、考えていました。ずいぶん増えたなぁと。
H&Mが2008年のリーマンショック後に上陸してから、もうすぐ3年経とうとしています。日本中に拡大しました。H&M、フォーエバー21、トップショップ、アバクロ・・・。これに加えて前からあるZARA、ユニクロ、しまむら、無印良品、GAPなどなど。
2008年にはリーマンショックがあったこともあり(これだけが原因ではないが)、ラグジュアリーブランドから消費者が離れていく傾向が見れました。そして、ルイヴィトンやグッチなどの高価なバッグを無理して買うという行為は少なくなり、「安カワ旋風」も手伝ってファストファッションのブームが吹き荒れました。これは、ラグジュアリーブランドにダメージを与えたことはあるでしょう。コムデギャルソンなどの高級ブランドとのコラボもあり、垣根がなくなっていたので。
僕は、ファストファッションブランドを100%否定することはできないと思うんです。むしろ、10年後、20年後の日本のファッション史に残るであろう流行、スタイル、現象だと思います。
その背景には、ファストファッションによって、今まで高慢だったラグジュアリーブランド、百貨店の姿勢が変わったからです。真摯に消費者に目を向け始めたのではないか、そんな印象があります。数年前の伊勢丹メンズ館2階平場のセールが初日から全て50%OFFだったのは、驚きましたけどね。
一方、今度は日本でもファストファッションが岐路に立たされているのかなと思っています。2009年のころよりも売上はあがっていない。特にH&Mは世界では売上をあげましたが、日本ではランバンとのコラボもコケたということを聞きました。
今の日本の消費者は、ただの倹約モードから本当に良いもの(ヘビーデューティーなものも含め)を、本人達の現実的な価格で買うというスタイルに回帰しているのではないか、そんな印象があります。メンズでいえば、アメカジの影響もありタフなアイテムが多いですね。 良いものを大事にする。しかし時には新しい商品を買いたい。その中でファストファッションは選択肢の1つに過ぎない存在になっていくかもしれません。
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アパレルで働いてるから余計に思うのですが…自分自身年々量より質。スタイリングでの着まわしりょく、デザインが強い弱い以前にモノとして廃れないものを求めてきてます。
デザインから素材に移行してきてますし、お客さんと話してても風合いや色合いでヴィンテージ風のものやド定番の素材やディテールにちょっと一癖くらいのもののが実際に売れてるように思います。M's braqueとか今の傾向の象徴のようなブランドに感じますけど。
この春のデニムのトレンドやここ2〜3年のシャンブレーシャツ人気もある意味でファブリックとしての耐久度の高さがあるので、買う側も、販売側も納得できるんですよね。
ハイブランドが改めてモノ造りに目を向け始めるきっかけとしてリーマンショックは結果良いきっかけになってるように今は思います。
いつも思ってるんですが、年度やシーズンでコレクションくくらずに、コレクションにナンバー付けて発表するとかにして形式の打ち出しが変わっていけば価値観に変化をもたらせるんじゃないかなーなんて考えちゃいます。
長文失礼いたしました。
>コレクションにナンバー付けて発表するとかにして形式の打ち出しが変わっていけば価値観に変化
むむ、さすがプロ。その案メモらせて頂きます(笑)。