■エンゲージメントのためのデジタルメディア活用と情報の一貫性
これからの、高級ブランドなどのファッション関連のPR活動に関して、ForbesのブログでJim Nicholsが、かつての伝統的なやり方はもう終わった、葬り去る、と海外メディアで述べています。
まず、伝統的なPR(パブリック・リレーションズ)とはなんぞや?ということですが、日本だと広報(プレス)と同義として使われます。ファッション業界では、各ブランドに部門がありますね。広告にも関係しますが、宣伝というより情報発信を行うのが主な業務です。紙媒体で一方通行に報じていたり、webでもHPのプレスリリースのページだけで情報を更新するような方法が、伝統的ということだと思います。
では、ファッションブランド企業として、将来に向けてどのようにしてPR活動をしていけばよいか?という疑問にJim Nicholsは以下のように述べています。
▲未来のPRの位置づけ
<<概観>>
将来、PRはメディア戦略の塊の1つとして吸収されます。それは、もうすぐ定義されつつある集成体ですが、『ウェビナー((Webinar) ウェブ(Web)とセミナー(Seminar)を組み合わせた造語)』を含むPRそのものと、デジタル戦略、メディアリレーション、マーケティング、ダイレクトエンゲージメントが1つに集まって塊となることです。
◎なんで、1つに塊とならなければならないか?
「 The message must be consistent from end to end.」・・・つまり、一貫性が欲しいからです。各部署でバラバラに情報があることはよくない。実際、Googleでの検索で一貫性のある情報を提供している企業は上位に出てくるというSEO効果も出ているそうです。
◎デジタル化は避けられない
「デジタル」は、規模、費用対効果のことを考えても避けられないメディアなんですね。PCだけでなくタブレット端末、スマートフォン、インターネットTVなどデジタル市場の拡大は止まりません。 ユビキタス化ですね。
◎ダイレクトエンゲージメントとは
これは、まだあまり日本では主流ではないと思います。エンゲージメントだけなら、2007年くらいから広告業界でかなり熱く議論されていますね。消費者と企業のつながりによって、商品・サービスに対して「こだわり」や「のめり込み」を発生させるという定義もあるし、『企業のメッセージと生活者の心をつなぐ「絆」』「ロイヤリティを生み出す作用」みたいなブランド論的な言い方もされます。専門的な説明は、jagat.or.jpをご覧ください。
この記事においてのダイレクトエンゲージメントは、ネットを通して影響力のあるブロガーなどの人物とブランド企業側が、「Face to Face」でコミュニケーションを取ることによって、絆やロイヤリティをより高めていく戦略であると私は考えています。
▲メディア、デジタル資産、ソーシャルプラットフォームを交差したパブリックエンゲージメント
上記のJim Nicholsの考察を元にマトリックスというポートフォリオのようなものが以下。
【マトリックスの横軸】無料⇔有料
【マトリックスの縦軸】口コミ⇔リッチメディア
このマトリックは左上から【OWNED properties(自社メディア)】【PAID media(所有するメディア)】【EARNED media(得られるメディア)】【SOCIAL platforms(SNS)】となっています。 横軸は左から右に向かってデジタル⇔アナログ。縦軸は、下から上に向かって1人からも情報を発信できる口コミ⇔リッチメディアといった大掛かりなメディアとなります。 特に重要なのは、左下【SOCIAL platforms(SNS)】だということですね。 この概念が2009年まではなかったんです。「3つのメディアと3つのスクリーン」という記事をこれから読んで頂きますが、2011年版は「4つのメディアと4つのスクリーン、そしてつながり」というところでしょうか。
メディアの概念を、買うメディア(Paid Media)、自社メディア(Owned Media)、得られるメディア(Earned Media)の3つに分けて考えている。「買うメディア」は広告枠を買うメディアということだろうから従来の広告メディアということになる。「所有するメディア」(Owned Media)は企業にとってWebサイト、モバイルサイトとして保有するメディアということになる。「得られるメディア」(Earned Media)はソーシャルメディアを有効に機能させることを言っている。「得られる」とは信用や評判を得られるということだ。
「買うメディア」と「所有するメディア」が「得られるメディア」を増幅させて、それがまた自社メディア機能をドライブさせるという考え方で、ソーシャルメディアをマーケティング的に強く意識した発想である。
このブログでもSMO(ソーシャルメディアオプティマイゼーション)の5原則を紹介したが、企業の自社メディアのソーシャルメディア対応ももちろんのこと、買うメディアもソーシャルメディアを意識したものにしていく必要性がある。
ソーシャルメディアに持ち出せたり、ソーシャルメディアを持ち込めたりする広告である。その事例はまたの機会に集める。そして、3つのメディアの連携と同時に重要な視点が、テレビ画面、PC画面、携帯画面の3つのスクリーンに対応したコンテンツ開発装置の用意である。できればこの3つに対してシングルソースマルチユースで対応したい。
「3つのメディアの連携と3つのスクリーンの連携」これが次世代広告マーケティングの重要な視点である。
拡張版に出てきた【縦軸】のインフルエンサーエンゲージメント(INFLUENCER ENGAGEMENT)。日本ではまだ馴染みのない言葉かもしれませんが、インフルエンサーエンゲージメント、ソーシャルメディアの波。極少数の人から拡大していくことで影響力を意味します。海外では、word‐of‐mouth(WOM)【口コミ】がベースとして説明されていますが、ブログやTwitter、Facebook、YouTubeなどネットを媒介したもので普通の口コミよりも強力なものを指します。画にすると以下のような感じ。
【Source:socialstrategy1.com】
▲PRはネットの普及によって知的でスピードが大事
このインフルエンサーエンゲージメントを使いながら、ファッションブランドのPRのプロフェッショナル達は、時々刻々と拡大し続けるデジタルメディア市場のスピードに順応して戦略を打たなくてはなりません。ネットによってどこでも誰でも人々が豊富な情報に即時にアクセスできるので、我慢することはできません。人々は最新のニュース、アップデートに飢えています。特に、ファッション産業はほかよりもリアルタイムに反響を確認できる敏感なものです。
◎伝統的なPRは時間遅れ、時代遅れ
これは簡単に言うと、紙媒体など固定されたコミュニケーションチャンネルに対して印刷中心だった世界の崩壊。破壊したのはインターネット。これは、他の産業のことでも同じだと思いますが、Eメールから始まりHP、Twitter、Facebookのような洗練された技術により、すぐに消費者とコミュニケーションが取れるのは大きい。これは上記マトリックスの【SOCIAL platforms】にあたることをご確認ください。
◎良い点と悪い点
さて、この【SOCIAL platforms】に注力することによる良い点は、上記でもありますが、追記すると「堅苦しさを減少させ、より一般的な聴衆の好みに合うように、また好意的な態度で彼らの要点を伝えることができること。これは論証上はるかに効果的」ということ。
一方、PRとしてプロフェッショナルとアマチュアの垣根がなくなり(その線引きの規則もない)、現代のコミュニケーションとしてのあり方が見えてこない。これは、ブランドイメージを時に傷つけるかもしれませんね。
▲新しいPRとは
新しいPRに必要な能力、条件について。これは、箇条書きにしましょう
1】スピードは当然として、詳細で簡潔なメッセージを作成する能力
2】クライアントの商品、イベント、またはそのアップデート情報について、ただ詳細を書くだけでなく多少ズレる(消費者が思いも掛けないコト、感性に訴求する)情報を足して伝える
3】PR文の書き方は、慎重で公の書き方と身近でカジュアルな感じの間をねらう(形容詞は最小限)。
▲PRは自分の聴衆のことをしるべし
上記の新しいPRに必要な条件と被るところがありますが、アクセスしてくる顧客情報を把握することは重要。PRの情報内容があまりにも安易なものは頂けない。かといって報道資料を受け取るメディア、マーケティングの専門家は、内容が難しい傾向があります。文章のへりくだりを望む消費者読者はいませんが、ある程度の教育水準をパスしている消費者読者に対して、どのように書くかが重要なのです。
だから、明確に消費者読者に情報を適合させるかのさじ加減が重要。さらに、読者の言語は何語が多いか、どんな情報記事を読みたがるかなど(これはアクセス解析ですね)
▲理想的な現代のPRのプロフェッショナルとは
マーク・ホプキンスいわく、現代のPRのプロフェッショナルの理想は・・・、
1】彼らのメッセージを伝播するジャーナリストと同じくらいビジネスのコネクターとして勤める存在
2】コネクターは、公衆が何を聞きたいか、ジャーナリストだったらどう書きたいか、という点で逆の考えを同時にすること
▲PRとはただのデジタル戦略ではない
PRというものは、あくまで製品、デザイナー、イベント、そしてブランドそのものを露出するものであるので、ただデジタル化すればよいというわけではない。デジタル戦略は方法の1つ。 言い換えれば目的と手段が逆になってはいけないということ。Facebookやソーシャルメディアありきで、伝達させること自体を忘れてはならない。
PRは、あくまで対人関係とニュースの伝達(interpersonal relations and the propagation of news)を中心にした上で、デジタル戦略を捉えなければなりません。ただ売れることだけを考える、市場志向、販売志向、製品志向よりも、あらゆる手段を使って生活者が無視できないような効果的な情報を伝えるのがPRです。
▲最後に
ファッションブランドは、他の産業よりもイメージ、トレンドを意識するものですから、PRは非常に重要です。ですから、最初にもどりますが「一貫性」が必要なんです。バラバラではダメなんです。そして、PR、マーケティング、商品開発、その他すべての部門がつながらなければならない。そして、個性的でユニークなマーケティングとPR戦略のバランスをとり、生活者にとどけなければならない。
これを行なってきた企業が1つ思い浮かびます。ユニクロです。本ブログで散々書いてきましたが、デジタル化・・・だけでなく、デジタルをうまく使ったPR戦略を行ったのがユニクロだったと思います。現在の状況もふくめ賛否両論あると思いますが、広告、宣伝だけともとれないネットを活用したPR戦略は秀逸の一言。これまでにないユニークさと一貫性、そして世界中のインフルエンサーエンゲージメントを活用することに成功したのは、ユニクロ以外私はまだわかりません。
今高級ブランドは、Facebook、Twitter、Ustreamをどんどん活用していますが、使い方を誤るとダメージになる諸刃の剣。手段が目的になってはいけないというのは、皆に言えることで肝に銘じる必要があるかもしれません。
【原文】Traditional Fashion PR Is Dead, Wanna Survive?
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