■チャイナリスク、メゾンのものづくり原点回帰、中国は生産地ではなく市場
90年代、ラグジュアリーブランドの大衆化が拡大し、大量生産の必要性を感じた一部のブランド企業は、中国製にシフトしました。
これは、21世紀になっても「ロゴ」を欲しがる、所謂記号消費の傾向が強い新興国市場では通じていたことですが、今行き詰まっているようです。
もはや、新しく富裕層となった新興国市場の消費者は”made in Italy”を欲するようになった、ということです。不況のどん底といってもいいイタリア経済ですが、アパレル生産だけは元気だというんですね。その辺の事情が、ft.comに載っていたので紹介したいと思います。
ft.com
In the stagnant Italian economy, one sector is still soaring: luxury manufacturing. Its health is a result of a strategy that involves both promoting the “Made in Italy” label and companies “structuring themselves to rival those countries that are advantaged by lower labour costs”, according to Alessandro Varisco, chief executive of Moschino.
イタリア経済は不活溌な中、ラグジュアリーブランドの生産に関してのみ好調になっている。 この良い状況は、”made in Italy”を謳うレーベルのプロモーション戦略と、低賃金労働コストで生産を進めるライバル企業に対して、優位になる戦略を構築することによる結果だとモスキーノのCEO、Alessandro Variscoは語っています。
ちょうどタイミングとして、先日バーバリーが広東省の受託生産工場の生産を打ち切りました。
長時間労働などといった同工場の過酷な労働状況を憂慮したというのが理由。こういった倫理取引規範の理由もありますが、そもそもmade in Italyに再び注目されることは、中国が低賃金ではなくなったきた、という説もあります。なんたって、日本を抜いて世界経済第2位になりましたからね。それで給料が変わらないというのは筋が通らないと。複雑な話ですが、順を追って今の状況を説明していきます。
■2011年世界のファッション産業:中国に次ぐ輸出国第2位はイタリアに
2011年、実はイタリアファッション産業には447000人が雇用されていて取引高は、約5兆2千億円。イタリアは中国に次ぐ第2位のアパレル輸出国(レザー、靴、服)になっていました。なんだかんだ中国が1位ですが、2位にイタリアが来ているというのは興味深いです。 生産地としては、正直真逆のベクトルで存在意義があるので・・・。
■イタリア製のアパレル商品の50%以上はヨーロッパ各国で売れている
さらに面白いデータが出ています。チープシックと掛けあわせて、ファストファッションを世界中に拡げた基礎を築いたヨーロッパの人達が、逆にイタリア製のアパレル商品を買う傾向が強いということ。実に、イタリア製のアパレル商品の50%を消費。それは、シャネルやルイヴィトンのアクセサリーも含むそうです。
実際、相対的な比率だけだとレザーグッズや靴の輸出が多いようです。
◎イタリアが輸出したファッションアイテム 2010年
レザーグッズとフットウェア:約1.4兆円分(このカテゴリ全体の11.3%)
衣服:1.6兆円(このカテゴリの5.6%)
このようなデータになっていますが、これからは経済発展著しいBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)です。
■これからは脱中国製でいったほうが安い?
Fondazione Altagammaのエグゼクティブ・ディレクターのArmando Branchiniいわく、ハイエンドブランドに関しては、中国へのアウトソーシングを小さくする。それは、コスト削減よりも市場に近いところでリンクしたほうが優位だと分かるから。
というのは、中国における労働コストの上昇は近年無視できない。さらに、流通コスト、運送コスト、為替レートなどなど、中国で生産してヨーロッパで販売するということにコスト削減の意味を成さない時代になってきている、と説明しています。
■技術流出をさせたくない
ロロピアーナの役員であるPier Luigiは、すべて商品はロロピアーナのハウスで生産されます。1990年代に、中国を含む海外に拠点を置くという考えもしたが、却下した。それは、ノウハウを中国に与えてしまうから。これが、結果的に中国での製造技術と品質管理コストを異常にあげてしまうことになってしまう。
昨今の中国は、確かに技術的に成熟してきているのも確か。コーチのバッグやアルマーニ・コレッツォーニあたりは中国製ですが、決して粗悪品ではありません。ただ、ハイエンドという意味ではチグハグになるのは否めないかと。
■セカンドライン、ディフュージョンラインなら中国製でいい・・・て、それもダメだって!?
高級ブランドのセカンドラインにあたるディフュージョンラインが、若者向けに21世紀になってたくさんできました。中には中国製が目立ちます。しかし、最近ではその忠義みたいなものもも変化しています。
ヴェルサスは、非常にハイ・ファッションな内容なので中国ではコントールできないと判断しているそうです。Mediterranean basinならよい場所で、品質、サービスともに良いとGian Giacomo Ferrarisが語っています。イタリアに物理的に近いエリアのことですね。
そして、中国の生産に対する姿勢の面まで話は及んでいるんです。
このほかに、ディフュージョンラインで名前の上がっている国といえば、トルコ、ルーマニア、ハンガリーなど。アレキンダーマックイーンとか、チュニジア製もありますよね。
ルーマニア製は結構よく見るんですが、生産者の実は5分の1がイタリア人だそうです。だから、価格は抑えられて良い商品ができるという。
■これからは職人を輩出する養成所がどこも必要
ファッション企業の役員達は、(海外に比べて)低い税は生産部門を刺激して、より多くのイタリア人を雇うことができると考えています。さらに、職人のための養成所から輩出することによって、勤務しながらトレーニングするという状況を減らせます。
ブランドが運営するファッションスクールとか、ありますよね。ルイヴィトンなんかはイタリアのファッションスクールをサポートしていますし。
■重要なことはこれから中国が生産地ではなく市場であること
大事なことは、再産業化計画を通して、イタリアファッションシステムをサポートし産業として向上させていくことと、ハイテクを駆使したサプライチェーンにより、”made in Italy”のタグが付く高価な本物のブランドを買いたがっている消費者達(まさに中国人富裕層)に行き渡らせることだと、イタリアアパレルアンドテキスタイルフェデレーションのMichele Tronconiは語っています。
これは、再燃しているヨーロッパ市場の次は、改めて中国市場の重要性を述べていることになります。中国生産の時代は終焉を迎え、ハイエンドブランドに関しては、イタリアかその近隣諸国で生産したほうがリスクとコスト面で優位だという結論になっています。
■最後に
英国の考察でファストファッションは今後消滅していくだろうという内容を紹介しましたが、ジワリジワリと効いてきているかもしれませんね。あっと驚くメゾンとコラボレーションするH&Mがどこまで拡大できるのか?コラボなければ無理だと僕は思っています。アバクロも厳しい。
そうなると、ファストファッションはGAP、無印良品、ユニクロといったベーシックで攻める無難な路線が、ハイエンドブランドとの差別化になるかと思います。ハイエンドとは違うから、ある程度中国製でも通じるでしょう。
でも、上記のように、中国製はコスト的に決して安くない。だから、ファーストリテイリングは中国以外の国にも設備投資をしているようですし、GAPのジーンズは、「日本製」を出すという話も出ています。
産地に注目が行く事によって、攻め手が増えるのは日本の工場だと思いませんか?僕もイタリア製は大好きですが、日本製は安心感、信頼性、身近な気持ちが出る。
廃業してしまう工場の社長達の中には、「技術があっても自分の工場を使ってくれるデザイナーがいない」、「メーカーから、御社の工場は高いから無理と言われた」なんていう嘆きがあるようです。ここの、切断されてしまっている人間関係、ビジネス上のリンクをつなげる人間がいれば(ボッテガヴェネタなどはブランド企業と工場が同じ立場で議論できる空気がある)、世界に輸出できる素晴らしい商品がたくさんできるのではないか、そんな気持ちで歯がゆいものがあります。
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どうしてもイタリア製には弱いです。
どんどん加速していますけどね^_^;
>チャックさんへ
コストに大きな差がなければ、イタリア製が増えることは嬉しいですよね。