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2012年12月14日

ファッション1000年史から今の課題を考える『ファッション・ブランドとデザイナーと呼ばれる戦士たち』

■1000年の歴史の流れから知的財産と高度大衆消費のバランスが日本ブランドには必要?

ファッション・ブランドとデザイナーと呼ばれる戦士たち ファッション・ブランドとデザイナーと呼ばれる戦士たち
塚田 朋子

同文館出版 2012-12-12
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以前、日本のファッション30年が凝縮した書籍「Future Beauty」を紹介し、「ウィメンズウェア100年史」をご紹介してきたわけですが、ついに1000年クラスの壮大なファッション史から、今のファッションの課題をあぶり出す書籍が発刊されました。
いや〜、平安時代はおろか、大化の改新まで遡っていますからね。なかなか読み応えありますよ(笑)。
『ファッション・ブランドとデザイナーと呼ばれる戦士たち - 西洋服後進国日本の千年』読んでみると、日本、欧州、途中からアメリカを含めドラマ「24」のように、各国地域で当時どんなファッションニュースがあって、いかに今のファッション産業へと成長してきたか、あるいは課題を残してきてしまったか・・・が記されております。
読み方は大きく分けて3つ。


単純に、日本を中心に1000年間のファッションニューがざっくりと分かること。
2つ目に、各国地域の社会、文化的な側面。著者の塚田朋子氏が述べているキーワードは「雅」、「いき」、「絢爛豪華」、「前衛」というカテゴリ。これで欧州と日本を比較していく。日本のデザイナーだったら、川久保玲、三宅一生が、日本が独自に得てきた1000年の遺産を持ったブランドとして登場します。
3つ目は、ラグジュアリーファッションにおけるマーケティングの在り方。これに関しては、簡単言うと、「知的財産権」と「高度大衆消費」が必要であることを主張。特に、デザイナーと経営者がよく話し合い、協働作業することが21世紀のファッション産業を支える上で大事だと著者は主張しています

面白いのは、堕落する高級ブランドでは、この高度大衆消費たるもの(例はルイヴィトンのバッグ)が高級ブランドを堕落させた、と悪者になっていたベルナール・アルノーが評価?されているところ。見方はいろいろあるものです。では、問題意識を見つつ1000年前に行くとしましょう。

<目次>

第1章 きもの文化の国で闘う三宅一生と川久保玲

1】日本の大企業 繊維産業、五服会、総合商社
(1)「糸へん景気」と繊維産業の国際競争力
(2)老舗「五服会」と電鉄系百貨店
(3)総合商社とファッション


2】三宅一生の闘い、川久保玲の闘い
(1)きもの文化の国で「洋服」をデザインすることの悲劇
(2)三宅一生:四半世紀前に21世紀の服を提案していたプロダクトデザイナー
(3)「コム・デ・ギャルソンと呼ばれる服」のデザイナー


第2章 21世紀の日・欧・米のファッションニュース

(1)欧州ラグジュアリーブランド連合軍
(2)アルノーはなぜ大成功し続けるのか
(3)ファッションフォーディズムの2つの方向
(4)ジルサンダー騒動とその他の人事異動
(5)ウラハラと東京コレクション


第3章 藤原氏全盛期から鎖国前までの日本とファッションニュース
(1)絹織物産業:古代からの重要産業
(2)「雅」からはじまった衣の文化
(3)ルネサンスとイタリア・ファッション
(4)ファッション業界を考えるためのキーワード「世阿弥の花」
第4章 鎖国期の日本と欧州とアメリカのファッションニュース

(1)産業革命とイギリスのメンズファッションリーダー
(2)ベルタンが売った絢爛豪華なトータルファッション
(3)友禅をきものブランドに仕立てた集団
(4)「いき」を普及させた江戸の新興呉服商と大衆
(5)モリスが参考にした資料VS新興国アメリカの「合理性」


第5章 帝国主義時代の日・欧・米のファッションニュース

(1)ファッションマーケティングの嚆矢ナイストロム
(2)ナポレオン3世紀のお抱え、ウォルトが世界を制覇する
(3)ポワレVSアメリカ繊維・ファッション業界
(4)日本の資本主義と繊維産業


第6章 1947年から2000年までの日・欧・米のファッションニュース

(1)ライセンスビジネスに頼った悲劇
(2)ファッションマーケティングの国から学んだ悲劇
(3)世阿弥を持ち出したブランド研究者
(4)日本のストリートファッション
(5)フランスオートクチュールプレタポルテ連合協会以後


終章 前衛よ、永遠に!

グレシャムの時代からユーロと1ドル70円台の時代まで
ラグジュアリーブランドとファッションフォーディズムの時代 柔らかくナチュラルに閉じた組織よ、永遠に



■西洋服後進国日本の過ち ライセンス契約商品の氾濫に米国型マーケティングを採用したこと

問題意識として、国内ではコピー商品の氾濫や、デザインのパクリ問題がひどいということ。毎シーズン開催されている、パリミラノプレタポルテコレクションで発表される最先端のデザインを、すぐに模倣して廉価版でショップで販売している現状に、百貨店には罪の一端があると厳しく指摘しています。
というのも、日本が「知的財産立国宣言」をしたのが2005年と最近であり(厳密には同じでないが、フランスでは1788年にデザインの保護条例制定されていた)、それまでのメゾンとのライセンス契約で、欧州で生産されていない廉価商品を陳列した悲劇の結果と説明しています。そのライセンス契約商品に慣れてしまったのは消費者ではなく、販売者側の百貨店。昔で言えば、老舗呉服商と総合商社となります。

こうなった原因として、日本が西洋服の歴史が浅いため、パリの一流のデザイナーのライセンス商品(サンローラン、ニナリッチ、ディオールのロゴをもらって貼るだけ)をありがたや〜ありがたや〜、と販売していき、ライセンス展開と深く関わったため。これがコピー商品に寛容なムードをつくった、と著者は述べています。

こういった、西洋服の目利きが乏しい販売業者達に加えて、販売ノウハウを、西洋服の本場フランスではなく、アメリカから学んでしまったものだから、好景気も後押しして皮肉にも市場が拡大。
この点、著者は経済学の巨人ジョン・K・ガルブレイスの「依存効果」という理論を引用して説明しています。依存効果とは、製品が多いほど幸せになるということ。アメリカの場合、生産は欲望を作り出し、社会が豊かになるにつれて大きくなる。欲望が欲望を満足させる過程に依存することです。この依存効果に警鐘を鳴らすのも、日本がそのカラクリにハマったから。

でも、著者はそんな呉服商、さらに、古くは平安時代まで遡ることによって、日本独特の衣の文化がありそれは欧州のものと共通点がある。古き良き時代は1000年前から見つめ直すことが大事であると説明しています。



■西洋服後進国日本だが、素晴らしい衣の文化はあったという事実、その歴史を紐解く



1】シルクが日本を始め世界のファッションに大きな影響を与えた

歴史の中心に日本と欧州に共通する織物があります。これがファッションの歴史を翻弄させたんですが「絹」です。本書には出て来ませんが「シルクロード」が関係していると読みながら思いました。そしてシルクロードの東の終着点は・・・日本の正倉院です。著者はシルクによって築かれた貿易こそグローバル時代の幕開けだということを主張しています。


さて、話は藤原道長の時代。おじゃるおじゃる。
「雅」と呼ばれるファッション文化が生まれます。それは、重ねの色目、つまり着用した全体像による色彩の美を競う文化であり、トータルコーディネートのバランスは日本1012年にあったのです。もちろん、絹がメイン。この後時代を1628年、徳川時代まで飛ばします。

この600年で、日本においては身分によって異なる布の種類の差が明確であったことが「きこなし」という美意識を発達させた重要な要因となったかもしれない。だから、江戸時代の日本人は、その「きこなし」で身分がすぐに分かる、相応しい、という視覚的感性を持っていたし、その時代で美意識を社会が共有している必要があった。だから、暴れん坊将軍は、城から出ている時はちょっと地味なんですね、わかります(笑)。

 

2】「雅」という色の重ね技は日本のきこなし

絢爛豪華ではなく、むしろ洗練された文化が花開きます。それは大化の改新後から続く技術者桃文師(アヤドリシ)によって、綾綿生産が盛んになります。そして、正倉院裂(正倉院に今も残る絹織物、羊毛製の敷物で、現存する最古の織物)が日本的ファッションの先駆けとなっていると言われています。これは、後の武士政権下でも京都でしっかりと根付きます。「雅」は重ねの配色美であり、現代のレイヤードのようだ・・・と言ったら怒られそうです(笑)。

その後、秘すれば花・・・能の大成者「世阿弥」が出てきたことから当時の天井人、足利義満をdisります。というのも、すべてを見せずに、ほんの少しのことを象徴的に表現することに意味があり、舞台裏は決して見せるものではない。でも、舞台裏では一生休むことなく精進すること。
これが、今のブランドにも必要であることを説明しています。


3】鎖国がもたらした、新興呉服店と大衆の木綿の応用・・・それが「いき」だった



1788年、京都大火により西陣の機屋は大打撃。これで逆に盛り上がったのが木綿。これを逆手に新興呉服店との取引増となった木綿産地。当時の湯帷子、つまり「ゆかた」は麻でつくらていましたが、生産が容易で廉価な木綿を素材としたものが登場。江戸町人の間で大流行。鎖国があったからこそ育まれた美のセンス。当時ひたすら、奢侈で絢爛豪華を享受していた欧州の存在があると、こうは行かなかったかもしれない異質な文化。

その後、新興呉服店は、経済力を蓄えてきた大衆にチラシのようなもので新商品を紹介しながら活発な取引が行われます。当時のチラシの絵は、喜多川歌麿というから贅沢。江戸の文化開花、「いき」という前衛的美意識の誕生となります。

いき」とはなんなのか?
蔵前風なんて例がありますが、派手な模様は嘲笑され、目立たぬ所に贅を尽くす「通」をさらに大きく表現したものです。 九鬼周造の『いきの構造』によると、「いきとは、大和民族の特殊の存在様相の顕著な自己表現の1つ、垢抜けて張りのある色っぽさ」とあります。

ある種、ディテール勝負、決して目立つことがお洒落ではないとした、ボー・ブランメルの考えるダンディズムと「=」と言いたいことろなんですが(時代も一緒)、立場も違えば意匠を守る法律もなかったのでその点大きく違うようです。

 

4】 明治維新〜近代に至るまで辿る日本の失われた10年 ライセンス商品の悲劇



幕末まで、「いき」という日本独特のファッションスタイルで勝負してきたのが、開国し第二次世界大戦後となると、もちろんアメリカの影響を受ける。平等な国の服という概念が拡がります。しかし、日本はその概念を間違えてしまう。それが、ライセンス契約です
アイビーの伝道師、石津謙介が立ち上げたVANやTPOという概念は、日本で定着し成功したものですが、このビジネスを孫借りして、もっと割のいい商売をしようとする会社が台頭してきました。これがよろしくないと。


西洋の特許、実用新案、意匠(デザイン)、商標(トレードマーク)といったものに知識が乏しいがために、ライセンス依存が割のいい商売だったんですね。ロゴマークを借りて、価格に注目する業界人に有利に作用してしまったのが、目利き業界人が育ちにくかったと著者は主張しています。コピーはコピーを生み、産業廃棄物化していく。元呉服商の高島屋やピエール・カルダン、伊勢丹はバルマン、阪急百貨店はランバンを契約し、日本のファッションは衰退していきました。これが、西洋服後進国日本の黒歴史。江戸時代の新興呉服店の「いき」の精神は消えていた。

日本における前衛は、鎖国で培われたきもの文化が変則的に進化し豪商が衣装のマーケティングを行う中で「いき」としてつながります。
西洋の様式美の表層の部分に誘惑されず、パリで成功したコム・デ・ギャルソン、イッセイミヤケ(とヨウジヤマモト)が、この「いき」であり前衛だったと日本のファッション1000年の歴史を通して説明しています。存在論的なお話で言うと3点

◎単なる物理的な「物質」の世界の存在物
◎消費者が抱くイメージや、クリエイターの主観的な作業といった「心や意識」の世界の存在物
◎前衛芸術作品を含む客観的な内容の世界の存在物

難しい書き方ですが、コピーとして影響を受けないオリジナルという意味で自律性を持っています。ボロルック、プリーツプリーズなんかそう。マルタンマルジェラも影響を受けています。ひたすら客観的になれるものが創造者になれる。

コム・デ・ギャルソンという企業の集合体を、作家の村上春樹氏は「柔らかくナチュラルな自閉症」という表現をしています。良い表現ではありませんが村上春樹流なんでしょうね。つまり、川上(メーカー側)から川下(消費者に到達)に至るまで、川久保玲の顔がチラチラ見えることが、ブランドの魅力を増すということ。そこに一部の隙もあってはならない。言ってみればミッキーマウスの中身は誰かわかってはいけないし、1度に2人出てきてもダメ。
これは、マルタンマルジェラたちが目指した、デザイナーを頂点とした企業体というよりも作り手たちが協働する工房のイメージ・・・そういえば、本ブログでもマルタンマルジェラのCEOが話していたことを紹介しましたが同じ事です。マルジェラの場合、CEOでさえインタビューに顔出しませんからね

しかし、これだとコアなファンは生まれても、ビジネスとしてコピー商品には勝てないのが現状。価格の面でも前衛ファッションのマーケティングは難しい。そこで、高度大衆消費を作り上げた成功事例として、著者が紹介しているのがベルナール・アルノーです。



■ベルナール・アルノーが成功したのは高度大衆消費を採用したから

本書籍では、ベルナール・アルノーは優れた経営者として紹介されています。文化的な面ではなく、マーケティング1本で、でございます。LVMHの経営は、ビジネススクールケーススタディになっているようですね。
ベルナール・アルノーは、昔クリスチャン・ラクロワに投資を続けていました。ちゃんと理由があります。
それは、クリスチャン・ラクロワがオートクチュール界最後のクチュリエと言われ、最高峰のデザイナーだったから。でも、経営破綻しました。それで、ベルナール・アルノーは変わりました。
オートクチュールのように、ブランドを一からじっと育てるよりも、元来歴史のあるメゾンに対して大型M&Aをすることが必要だと。高価格、ハイコスト(熟練された職人を雇用する)、職人技を顧客に見せる、流通の制限、控えめなプロモーションこそが重要だとアルノーは考えます。これがタイムレス、モダン、成長性が高い、高収益を生みスターブランドとなるという確信があります。これが、プレタポルテ(既製品)の隆盛であり、高度大衆消費社会でありファッションのフォーディズム(大量生産大量消費)となります。ただ、商品がコモディティ化し、販促コストが増え、価格競争に巻き込まれるアメリカ型のマーケティングとは違う点、注目に値すると著者は述べています。

 

■最後に

著者は、ファッションマーケティングと経営学者は、目を向けてデザイナーが活躍する場を制度的に広めることが重要だと主張しています。実際、日本には優れた能力を持ちながら散っていくデザイナーがたくさんいます。誰がコントロールをしてあげるか?東京ファッションデザイナー協議会と、勇気のある経営者ではないでしょうか?
著者も、国が助成したという7億円の行方はどこに?東京コレクションにもさらに努力が必要なんて言うことも行っています。具体的に動いているのは、パルコの日本ファッションファンド。オンワード樫山のファッション大賞プロ部門、JFWの支援事業にも「シンマイ」というコンペができましたが、まだまだ全然足りない。やるなら徹底的にしないと。made in Japanが消える前に。

【関連】過去紹介した本、ムック



posted by No.9 at 20:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | 議論 | 更新情報をチェックする
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